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伝統農産物アーカイブ事業では、いわき昔野菜実証圃場を設け、いわき市において、代々受け継 がれてきた種子や株などを、栽培者の方から譲っていただき、実際行われている栽培法で育て、採種 までを行っています。
平成22年から3年間にわたって取り組んで来た、いわき昔野菜実証圃の栽培管理は、退職後の 家庭菜園の体験しかない私にとって、貴重な経験と成りました。
初年度は、春・夏野菜の播種期からだいぶ遅れた、6月からの取り組みとなってしまいました。 ずんぐりむっくりした姿の、ウリとのあいの子のような食感をもつ三和の「昔きゅうり」や川前 の「小白井きゅうり」。畑から掘り起こしたばかりを譲っていただいた「ワサビダイコン」。明治時代 から畑の隅で繋いで来た三和の「明治ニラ」。手てかんな鉋で「カンピョウ」を自作する永崎の「ユウガオ」。 常磐線開通後、千住から移り住んだ「千住一本ネギ合柄」の太いもののみを選別して栽培を続け、一 時は宮内庁にまで献上されたという、平白土の「いわき一本太ねぎ」。炭坑時代の塩辛い漬物などに 用いられた「唐辛子」。嫁ぐ際に母が持たせてくれたという、三和の「むすめきたか」。砂質の土をもっ ても、根の先が枝分かれするほど軟らかい、渡辺町の「おかごぼう」。交雑を避けて丁寧に栽培され ている、大久の「黒じゅうねん」や、いわき地方の新盆の風習を飾る1m近くある「十六ササゲ」。
「親孝行豆」という名の「いんげん豆」。田人には、「さとまめ」「のりまめ」などの多くの豆類の他 に、100年栽培を繋いだ「田人そば」、「蒟蒻」など、何れも初めて聞くもの、見るものばかり。い わき市で栽培されている在来作物を発掘し、地域の財産として記録を残したいという私たちの取り組 みを理解し、ご支援ご協力を快諾下さった栽培者の皆様のおかげで、いわき昔野菜実証圃は、たちま ち30種ほどの作物で賑わう運びとなりました。
きゅうりやいんげんなど蔓つる性の作物には、近隣の竹林から戴いた約100本の竹で、竹柵を組み 上げ、真夏の暑い盛りには、パラソルを移動させてながら草取りに取り組みました。軽四トラック一 台で、牛ふん、堆肥の運搬のために、平と川前の往復を重ね、インゲン栽培の終わった農家さんに 50m分のパイプ柵を戴きにうかがったこともありました。
畑で必要な水も自分たちで汲みに出かけ、種子の乾燥や種採りの作業に、近隣のビニールハウス をお借りしたこともあります。
栽培者のご教示に、どんなに忠実に栽培を進めて も、天候や土質、水分の加減などで、十分な収穫、 採種のかなわなかった作物もあります。いわき昔野 菜の元の個性を壊すことなく、その土地の気候や土 質に合わせ、標高差なども勘案した栽培法を見い出 すことが、いわき昔野菜実証圃の課題です。また、 栽培者の方々の高齢化、自然環境の変化を考慮し、 安定した種子の継承は最も重要視せねばなりません。 この冊子を読んで下さった方の中には、私どもの イベントで種子の頒布を受けた方もいらっしゃると 思います。栽培に携わる全ての皆さんと一緒に、い わき昔野菜の「いわき式種子継承方法」を確立し、 大事に繋いで行きたいものです。
いわき昔野菜栽培実証に取り組んで
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完熟した作物から翌年分の種を採取したり、根株や種芋などを保存して、再度植え 替えて増やすことは、昔はごく当たり前のことでした。形良く色鮮やかで、病気にも 強いF1の種子が気軽に手に入るようになった昨今、この営みを農家の軒先に見るこ とはほとんどなくなってしまいました。
親から子へ、そして孫へと代々受け継がれてきた種子や株、あるいはご近所同士で 種を交換し合いながら、長年栽培が続けられてきた作物は、その土地の風土に最も適 合した作物といえます。なにより、そこに住む人々とともに歩み、家族の食卓を支え てきた地域の宝にほかなりません。
手間ひまのかかる作業を繰り返し、今日まで繋いできた種子や株は、一旦切れてし まえば、二度と手に入れることはかないません。作物をとりまく環境が、めまぐるし く変化する中、元ある個性を維持しながらどのように守って行くかは大きな課題です。
今回3冊目の発刊となった「いわき昔野菜図譜」は、このような一子相伝の種子や 株を用いて、代々栽培が続けられてきた作物に加え、土地の言い伝えや祭事・慶事な どに登場し、地域の伝統文化と深い関わりをもつ作物、また、長年受け継がれてきた 栽培方法や料理方法、保存方法などをご紹介しています。今回掲載する作物16品種 を加えると、3冊で合計56品種のいわき昔野菜をご覧いただくことになります。
いわき市はとても広く、市街地と山間部、そして海沿いの地域では、気温も土質も 全く違っています。100の作物があれば、100の栽培法があり、また、同じ数だ け、作る人の喜びやご苦労があります。
栽培者さんやそのご家族の記憶を辿りながら、作物の歴史を紐解き、栽培にまつわ る物語に出会うことを繰り返しながら、何度となく心豊かな時間を過ごさせて頂きま した。この冊子を手にとって下さった皆さんに、こうした感動や、栽培を続けてこら れた方の熱意も一緒にお届けできればと願っております。